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水戸地方裁判所 昭和44年(ワ)210号 判決

原告

辻本瑠美子

被告

安東貢

ほか三名

主文

一  被告安東貢、同安東保、同飯島孝は各自原告に対し金八三万五、七八〇円および内金七三万五、七八〇円に対する昭和四四年八月八日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告有限会社茨城ドライブセンターとの間に生じた分は原告の負担とし、原告とその余の被告等との間に生じた分はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告安東貢、同安東保、同飯島孝の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告等は各自原告に対し金一五二万九、五三八円および内金一三七万九、五三八円に対する昭和四四年八月八日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  原告は昭和四一年七月二七日午前中、たまたま食堂で知り合つた被告安東貢から無理にドライブに誘われて、断り切れず、同被告の運転する自家用乗用自動車(茨・そ八六四八)(以下被告車という)の助手席に同乗した。しかるに同被告は同日午前一一時五〇分頃、茨城県東茨城郡常澄村小泉二一一三番地先国道二四五号線のカーブにさしかかつた際、ハンドルの操作を誤り、路面を左側に併走して同所に設けられていた灌漑用側溝に転落し、被告車の前部左側を激突大破させるとともに同乗していた原告に対し左頬、鼻、顎等顔面五ケ所以上の切削、右顔面打撲傷、内出血、後頭部数ケ所の切削および打撲傷・左膝・左肘関節部打撲傷等の重傷を負わせた。

二  本件事故は被告貢の前記過失によつて生じたものであるから、同被告は民法七〇九条により、被告飯島は本件事故当時被告車につき自動車検査証および自動車登録原簿上の使用者名義を有し、被告車の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条により、いずれも本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があり、また、被告会社は自己の管理する自動車を不特定多数の他人から申込みを受けて運転免許証を確認するだけで運転技術を確認せず、相当高額の料金を得ることにより短期間賃貸することを案とするいわゆるドライブクラブ経営者であつて、被告車は事故当時被告飯島から被告会社に引渡され、被告会社から被告貢に一時的に賃貸され、被告会社の管理の下に運行の用に供されていたのみならず、そもそも本件においては、被告車は「自家用自動車」であつて、運輸大臣の許可を受けない限り、有償で他人に貸渡すことができない(道路運送法一〇一条二項)のに、被告会立は被告貢に対し被告車を違法に貸与したものであるから、被告車についてはマイカーを友人に一時的に貸与した場合と同じく自家用自動車としての一時的な貸借がなされたものというべく、それが「貸自動車業」の営業としてなされたことを理由として被告車に対する運行の支配および利益が借主たる被告貢に帰属するに至つたものということはできない。以上の理由により、被告会社は被告車に対する運行の支配および利益を失わないものであるから、運行供用者として自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。のみならず、被告会社は前記の如く道路運送法に違反して、被告貢に対し被告車を貸与したものであるところ、この点の被告会社の故意過失が本件交通事故の原因をなしているものというべきであり、その間に相当因果関係を認めるべきであるから、この点からも右損害の賠償責任がある。また、被告保は、被告貢の実父であつて、事故当時同被告が未成年者であつたところから、事故直後である昭和四一年七月三〇日被告保が原告方居宅に見舞に訪れた際、当時未成年であつた原告の親権者であつた訴外辻本敏夫婦に対し、被告貢の本件不法行為に基く損害賠償債務につき全面的に連帯保証することを約したものである。

三  損害

1  原告は事故後直ちに水戸市十軒町所在の原外科医院に運ばれ事故当日から三〇日間同医院に通院し、患部縫合手術その他の治療を受けたが、その後さらに後頭部のガラス破片を除去するため七日間通院した。しかしながら、顔面の負傷は無惨な傷痕を残し、従前の容貌は著しく変改し、整形手術の必要があつたので、同年一〇月一三日原告は東京大学医学部附属病院(以下東大附属病院という)形成外科で診断を受けたところ、鼻・下顎については傷害の部分を切除して縫合し直すべきこと、また顔の部分は極めて高度、複雑な手術を施すべき必要がある旨指示されたので、同日以降昭和四三年五月までの間に合計四一回に亘り上京して同病院の診療を受け、その間鼻および下顎部に対する手術を受けたが、なお今後三回に亘つて顔部等の整形手術を行う必要があり、しかも、その場合、各回とも一〇日間以上の入院を必要とし、また手術後少くともそれぞれ一〇回以上の通院、診察を受ける必要がある旨診断されている。

さらに、原告は頭部顔面等を強打しており、頭痛が絶えなかつたので、この点の精密検査を受ける必要があり、茨城県西茨城郡友部町所在の茨城県立中央病院において昭和四一年一〇月二一日を第一回として予備診断を含め、前後三回に亘つて通院し、脳波検査を受け、その結果脳内には格別の異常がないものと認められたけれども、その後依然として時折頭痛がある。

2  治療費等

(一)  原外科医院関係合計金四万二、六〇〇円

(1) 治療費金二万三千円

(2) 交通費金一万一千円

イ タクシー代(肩書自宅から同医院まで往復)金一万五八〇円(一往復金四六〇円二三回分)

ロ バス代(吉田局前から本七丁目まで往復)金四二〇円(一往復金七〇円六回分)

(3) 経費金八、六〇〇円

イ 氷代(釜金商店支払分)金五、四〇〇円

ロ 氷枕および氷のう代金八〇〇円

ハ 牛乳代(一二〇本)金二、四〇〇円

口腔内の裂傷のため固形物を摂取できなかつたので、特に午乳を必要としたもの。

(二)  県立中央病院関係合計金一万五、九〇〇円

(1) 治療費金一万四、七〇〇円

(2) 交通費金一、二〇〇円

イ バス代(肩書自宅から水戸駅迄往復)金一八〇円(一往復金六〇円三回分)

ロ 汽車賃(水戸、友部駅間往復)金四二〇円(一往復金一四〇円三回分)

ハ タクシー代(友部駅から同病院迄往復)金六〇〇円(一往復金二〇〇円三回分)

(三)  東大附属病院関係合計金九万六、五二〇円

(1) 手術料金三、一〇〇円

(2) 診察料金四、一〇〇円(一回金一〇〇円四一回分)

(3) 交通費金八万九、三二〇円

イ 汽車賃(水戸、東京駅間急行往復)金一、三二〇円、バス代(肩書自宅、水戸駅間往復)金六〇円、タクシー代(上野駅、同病院間往復)金二六〇円であるので、通院一回の交通費は合計金一、六四〇円であり、四一回分合計金六万七、二四〇円である。

ロ なお、そのうち一六回分は同病院の指示により付添を要したので、その汽車賃およびバス代として一回につき金一、三八〇円で、一六回分合計金二万二、〇八〇円を支出した。

3  将来の手術費用等(東大附属病院分)金六〇万三、〇六〇円

(一)  手術料金三〇万円(三回分)

(二)  入院費金一八万円(一日につき金六千円で手術一回につき入院一〇日間分)

(三)  ほかに入院一回につき金二万円を徴収されるので手術三回分合計金六万円を加算する必要がある。

(四)  診察料金三千円(一回金一〇〇円三〇回分)手術一回につき、少くとも一〇回に亘り、術後診察を受ける必要があるため。

(五)  交通費金六万六〇円

汽車賃(水戸、上野駅間急行往復)金一、五〇〇円、バス代(肩書自宅、水戸駅間往復)金六〇円、タクシー代(上野駅、東大附属病院間往復)金二六〇円、以上合計金一、八二〇円が一回分であるが、手術三回、通院三〇回を要するので、その三三回分。

4  慰謝料

原告は昭和二二年一一月三〇日出生し、昭和四一年三月茨城県立水戸第三高等学校を卒業し、同年四月東京デザイナー学院に入学し、絵画の勉強をしていたが、本件受傷により、絶大な精神的打撃を受け、人前に出ることにも耐えられず、そのため昭和四一年一〇月頃前記学院を退学し、治療等のため外出する以外は殆んど家に引きこもつていたところ、その後気をとり直し、水戸市内のリリー洋裁学院に入学したが、未婚の女性として、前記の如き外貌の被害によつて受けた精神的苦痛を慰謝するには、今後受けるべき整形手術の苦痛と煩わしさ、結婚に対する影響等を考慮するときは、少くとも金一五〇万円が相当である。

5  損害の填補

原告は自賠責保険金八七万八、五四二円の給付を受けた。

6  弁護士費用

被告等は本件事故によつて生じた損害を任意に賠償しないので、原告はやむなく原告訴訟代理人に委任して本訴を提起したが、その際手数料金五万円を支払い、かつ、判決時に成功額の少くとも一割を支払うべきことを約した。右弁護士費用は本件事故と相当因果関係のあることは明らかであるから、その内金一五万円を損害として請求する。

四  よつて、原告は被告等に対し残損害額合計金一五二万九、五三八円および内金一三七万九、五三八円に対する昭和四四年八月八日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告貢、同保および被告会社の抗弁事実は否認する。と述べた。

被告貢、同保訴訟代理人は

一  請求原因一の事実中原告が原告主張の日時場所で、たまたま食堂で知りあつた被告貢の運転する被告車の助手席に同乗して進行中、同被告がハンドルの操作を誤り、路面を左側に逸走して同所に設けられていた灌漑用側溝に衝突したこと、そのため、被告車の前部左側を大破させるとともに、同乗していた原告に左頬切創の傷害を与えたことは認めるが、右顔面打撲傷および内出血、後頭部数ケ所の切削ならびに打撲傷、左膝、左肘関節部打撲傷等の傷害を与えたことは不知。その余の事実はいずれも否認する。

二  同二の事実中被告貢の過失の点は争う。

また、被告保が被告貢の実父であること、事故当時被告貢が未成年であつたこと、被告保が原告方に見舞に行つたことは認めるが、同被告が当時未成年であつた原告の親権者であつた訴外辻本敏雄夫婦に対し、被告貢の本件不法行為に基く損害賠償債務につき全面的に連帯保証することを約したことは否認する。

三  同三 1の事実中、原告が水戸市十軒町所在の原外科医院に運ばれ、事故当日から三〇日間通院して患部縫合手術その他の治療を受けたことは認める。顔面の負傷が無惨な傷痕を残し、従前の容貌は著しく変改し、整形手術の必要があつたことは否認する。その余は不知。

同三 2、3の各事実は争う。

同三 4の事実中、原告が本件事故によつて傷害を受けたことは認めるが、その余は争う。

同三 5の事実は認める。

同三 6の事実は不知。

四  同四の主張は争うと述べ、抗弁として、

原告は被告貢が運転免許をとつたばかりで、運転経験も日が浅いことを承知しながら、被告車に同乗し、しかも、行先を途中で変更させて自己の希望する方面に転進させる等被告車の運行に支配的影響力を及ぼし、かつ、その影響下の運行中において本件事故が発生したのであるから、原告においても軽率のそしりを免れず、過失が存していたものである。

と述べた。

被告飯島は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一  請求原因一の事実中原告主張の日時、場所で、その主張の如き交通事故が発生し、被告車が破損したことは認めるが、その余は不知。

二  同二の事実中、被告飯島が被告車の運行供用者であることは否認する。もつとも、本件事故当時被告車の自動車検査証および自動車登録原簿上の使用者名義は同被告であつたが、実際には、同被告は被告会社に対し本件事故前である昭和四一年七月一〇日被告車を売渡して内金を受領し、登録名義変更後に残金を受領する約定であり、その引渡も完了していたのであるから、被告飯島は運行供用者ではない。

三  同三の事実中5を認め、その余は不知。

四  同四の主張は争う。

と述べ、

被告会社は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一  請求原因一の事実中、原告主張の日時場所において原告主張のような交通事故が発生し、被告車が破損したことは認めるが、原告が無理にドライブに誘われたことは否認する。その余の事実は不知。

二  同二の事実中、被告会社が自動車賃貸業を営むこと、被告会社は運転免許証を確認するだけで、運転技術を確認しないで自動車を賃貸していること、被告車が被告飯島から被告会社に引渡されたこと、それが本件事故当時原告主張の如く被告飯島の使用者名義であつたことは認めるが、その余は争う。

三  同三の事実中5を認め、その余は不知。

四  同四の主張は争う。

と述べ、抗弁として、

本件事故は被告貢の単なるハンドル操作の誤りに基くのみでなく、被告車がかなりの高速度で走行して来たことも起因することが推認されるところ、原告は当時自動車運転免許の修得のため自動車学校に通つており、かつ、高校卒業後上級学校に進学していたのであるから、右の如き被告貢の無謀運転につき注意をすべきであつたものであり、かつ、被告車には安全ベルトが装着されていたのであるから、原告がこれを掛けておれば本件事故にあつても負傷せずにすみ、かりに負傷したとしても軽微な程度ですんだものと認められるところ、原告は何等前記の措置に出でず、漫然被告車に同乗し、安全確保に対する注意を怠つたものであるから、原告にも過失があるものというべきである。と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  被告貢の運転する被告車が昭和四一年七月二七日午前一一時五〇分頃茨城県東茨城郡常澄村小泉二、一一三番地先国道二四五号線のカーブにおいて灌漑用側溝に衝突する交通事故を惹起し、そのため、被告車が破損したことは全当事者間に争いがなく、原告と被告貢、同保との間で成立に争いがなく、その余の被告等との間では公文書であるので〔証拠略〕によれば、被告貢は前記の如くカーブした事故現場において法定の最高速度を越えた時速約七〇粁で進行し、かつ、脇見運転して前方に対する注視を怠つたため、ハンドル操作を誤り、路面を左側に逸走し、前記側溝に衝突後転落し、被告車に同乗していた原告が顔面打撲傷兼顔面後頭部多発性切創、左膝、左肘関節打撲傷等の傷害を受けたことが認められ(以上の事実中、原告と被告貢、同保との間においては、原告が被告車に同乗していたこと、被告貢がハンドル操作を誤り、路面を左側に逸走したこと、原告が顔面(左頬)に切創を受けたことは争いがない)、右認定に反する証拠はない。

二1  右認定したところによれば、被告貢はその運転上の過失により本件事故を惹起したことは明らかであるから、同被告は民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務のあることは明らかである。

2  つぎに被告飯島が本件事故当時被告車の自動車検査証および自動車登録原簿上の使用者名義を有することは原告と同被告との間で争いがないから、特段の事情の認められない限り同被告は被告車の運行供用者であると推認される。

同被告は本件事故以前被告会社に対し被告車を売渡しその引渡も完了したとして被告車の運行供用者であることを争うのであるが、これを認めうる証拠はない。

よつて、被告飯島は自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  そこで、被告会社が運行供用者であるか否かにつき考えるに、被告会社が自動車の賃貸を業とするものであること、被告会社は被告貢に被告車を賃貸したことは当事者間に争いがない。ところで、自動車の賃貸業者には種々の態様があり、それが借主の運行による事故につき運行供用者であると言い得るのは自動車賃貸契約を締結するに際して自動車賃貸業者の取つた措置(例えば運転免許その他一定の利用資格の有無の審査等)、賃貸契約の内容(使用時間の長短、料金額の多寡、借主の予定利用時間、走行区域、制限走行距離の遵守等の義務の有無)等からして、具体的に自動車賃貸業者に賃貸自動車に対する運行支配および運行利益が帰属するものと認められる場合でなければならないものと解すべきである。しかるに、本件においては、被告会社が自動車運転免許を確認するだけで、運転技術を確認しないで自動車を賃貸していることは当事者間に争いがなく、また、〔証拠略〕によれば、被告貢は料金を払い、使用時間四時間の約で被告会社より被告車を賃借したことが認められるけれども、右事実をもつてしてはたやすく被告会社が被告車の運行供用者であるというを得ないところであり、他に前記の具体的諸要件を認めうる適確な証拠も存しないから、被告会社を目して被告車につき運行支配および利益を有するものということはできない。もつとも、被告車は本件事故当時自動車検査証および自動車登録原簿上被告飯島の使用者名義であつたことは原告と被告会社との間で争いがないところ、このような自家用自動車は運輸大臣の許可を受けない限り有償で他人に貸渡してはならないことは道路運送法一〇一条二項の明定するところであるが、たとい、それが右行政上の取締法規に違反して賃貸されたとしても、そのことから直ちに右賃貸を目してマイカーを友人に貸与した場合と同視し、いわゆる「一時的貸借」であるとして依然被告会社が被告車に対し運行の支配および利益を有するものということはできないのである。

さらに、原告は被告会社は別記法案に違反し、被告貢に対し被告車を貸与したものであり、この点の故意、過失が本件事故の原因をなし、かつ、その間に相当因果関係があるので、不法行為者責任がある旨主張するが、被告会社が前記法条に違反して被告貢に被告車を賃貸したことにつき、故意または過失を有したとしてもそれと本件事故発生との間に相当因果関係が存するものとは断じ難いので、右主張は採用し難い。

それ故、被告会社は本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があるものということはできない。

4  最後に、被告保の損害賠償責任について考えるに、〔証拠略〕を総合すれば、被告保は昭和四一年一二月二四、五日頃原告の親権者であつた両親に対し本件事故によつて同被告の未成年の子である被告貢が原告に蒙らせた損害を親として賠償すべき旨約したことが認められるから(被告保の本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに措信し難い)、被告保は本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで、被告貢、同保の抗弁について考えるに、〔証拠略〕を総合すれば、原告は事故当日水戸市吉沢町所在の茨城県自動車学校附近の食堂で友人の訴外早川勝己と話し合つているうちたまたま来合わせた同人の友人である被告貢から同被告が、被告会社から借受けた被告車で大洗町方面へドライブに行くことを誘われたところ、気軽に早川とともにこれに応じたこと、原告は被告貢とは初対面であり、その運転技術については全く未知であり、若干不安感を抱いたのに、慎重にこれを確認することもなく漫然被告車に同乗したこと、同被告は被告車を運転し、前記自動車学校前から水戸市下市本一丁目に出、さらに浜田を通つて大洗町方面へ向い、塩ケ崎十字路を通過した頃、原告が「大洗には友人がいるので都合が悪い。阿字ケ浦の方がよい。」と言い出し、運行経路の変更を希望したので、同被告はその希望を容れて転回し、右十字路にもどり、これを右折して阿字ケ浦に向けて最高速度を越えた時速約七〇粁で進行中同被告が運転免許を取得したばかりで運転技術が未熟であつたことも手伝つて、本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕はない。

以上の如く、原告は被告車に同乗するに際し、軽卒であつたというべきのみならず、予定コースの変更により被告貢の運行に影響を及ぼし、その変更されたコースの運行中に本件事故が惹起したものであるところ(なお、原告が被告貢に対し前記の高速度運転につき注意を促したことも認められない)、このような事情は衡平の原則または信義則よりして運行供用者の責任を軽減する事由たりうるものというべきであるが、本件においては、右事情は慰謝料額の算定にあたり斟酌せらるべきものと考える。

四  損害

1  治療費等

(一)  原外科医院

(1) 治療費

〔証拠略〕を総合すれば、原告は本件事故によつて受けた前記傷害治療のため、昭和四一年七月二七日より同年一〇月一九日までの間、二八日間水戸市十軒町所在の原外科医院で通院治療を受け、その治療費等として金二〇、四一〇円を支払つたことが認められる。

(2) 交通費

〔証拠略〕によれば、原告は原外科医院へのタクシーおよびバスによる通院交通費として合計金一万五六〇円を支払つたことが認められる。

(3) 雑費

〔証拠略〕によれば、原告は原外科医院での治療にあたり必要な氷、氷枕および氷のうを購入し、その代金六、二〇〇円を支払い、さらに、負傷のため固形物を摂取できなかつたので、医師の指示により牛乳を購入し、その代金二、四〇〇円を支払つたことが認められる。

(二)  県立中央病院

(1) 治療費

〔証拠略〕によれば、原告は受傷した後頭部に痛みを感じたため、昭和四一年一〇月二一日より同年一一月五日までの間の三日間、茨城県西茨城郡友部町大字鯉淵所在の茨城県立中央病院で脳波の検査および眼底検査を受け、その検査料等として金六、〇五二円を支払つたことが認められる。

(2) 交通費

〔証拠略〕によれば、原告は肩書自宅から同病院に通院するため三日間で合計金一、二〇〇円を支払つたことが認められる。

(三)  東大附属病院

(1) 手術料

〔証拠略〕と東大附属病院に対する調査委託の結果によれば、原告の顔面に瘢痕化した傷が残つたため、傷痕除去の治療のため昭和四一年一〇月一三日より昭和四三年五月九日まで東京都文京区本郷七丁目所在の東大附属病院形成外科に通院して診療を受け、その間鼻および顎の再縫合手術を一回受けたが、右手術料として金三、一〇〇円を支払つたことが認められる。

(2) 診察料金

ところで、被告は同病院へ週一回通院したと主張する。前記調査委託の結果と〔証拠略〕によれば、原告は少くとも一四回は同病院に通院したことが認められるが、これを超えて合計四一回通院したことについては、〔証拠略〕のみによつてはたやすくこれを肯認することができず、他にこれを認めうる適確な証拠もないから、結局右通院回数は一四回の限度で認めるのほかはない。それ故、原告の請求する同病院での診察料金は〔証拠略〕によつて認められる一回分金一〇〇円の割合による一四回分合計金一、四〇〇円の限度で容認せざるを得ない。

(3) 交通費

〔証拠略〕によれば、原告は肩書自宅より前記病院まで通院するための交通費として一往復金一、六四〇円程度を支払つたことが認められるから、一四回分の合計額は金二万二、九六〇円となる。原告は同病院への通院にあたり医師の指示により一六回付添人を必要とした旨主張するが、〔証拠略〕に徴しにわかに措信し難く、他にこれを認めうる適確な証拠はない。

2  将来の手術費用等

(一)  手術料等

〔証拠略〕の各証言に鑑定委託の結果を総合すれば、原告は東大附属病院で診療および手術を受けたが、顔面の瘢痕は依然消失していないこと、この瘢痕を通常の水準程度に形成するには将来少くとも二回程度の形成手術を施行することを要すること、その手術に要する費用は手術料、入院料、診察料等を含めて合計金三〇万円程度であることが認められ、〔証拠略〕はにわかに措信し難い。

(二)  交通費

〔証拠略〕を総合すれば、原告は将来前記の如き形成手術をした縫合各手術後に通院一〇日程度を必要とすること、そのため肩書自宅より東大附属病院までの交通費として通院一回につき少くとも金一、八二〇円程度を必要とすることが認められるから、手術二回、通院合計二〇回として通院交通費は合計金四万四四〇円となる。

3  慰謝料

〔証拠略〕によれば、原告は昭和二二年一一月三〇日生れで、高校卒業後東京デザイナー学院に通学して絵画の勉強をしていたが、本件事故にあつて負傷し、前記の如く顔面の瘢痕が消失せず、人前に出るにも耐えられないため、事故後間もなく右学院を退学し、治療のため通院する以外は殆んど家にひきこもつていたが、気をとり直して水戸市内の洋裁学校に入学した。しかし、原告は未婚の女性として、外貌に前記の如き被傷を受けたため、縁談が持込まれても破談になることをおそれ、自ら先に断つてしまうと言つた状態であることが認められる。このような事実に前記認定の原告の同乗者としての軽卒さ等その他諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて原告が蒙つた精神的苦痛は金一二〇万円をもつて慰謝せらるべきが相当であると認められる。

4  以上損害額合計金一六一万四、三二二円となるところ、原告が自賠責保険金八七万八、五四二円の給付を受けたことは当事者間に争いがないから残損害額は金七三万五、七八〇円となる。

5  弁護士費用

被告等が任意に本件事故によつて生じた損害を賠償しないため、原告はやむなく、原告訴訟代理人に委任して本訴を提起したことは〔証拠略〕によつて認められるから、それに要する弁護士費用は本件事故と相当因果関係にある損害として、その賠償を求めうべきところ、本件においては原告が損害として請求しうべき弁護士費用の額は、請求額、認容額、事案の内容、事件の難易、訴訟追行の状況、その他諸般の事情を考慮して金一〇万円と定める。

五  よつて、被告貢、同保、同飯島は各自原告に対し金八三万五、七八〇円および内金七三万五、七八〇円(弁護士費用を除いた金額)に対する事故発生の日の後である昭和四四年八月八日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の右被告等に対する本訴請求は右の限度で正当として認容すべきも、同被告等に対するその余の請求および被告会社に対する請求は失当として棄却を免れない。

そこで、民訴八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

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